過去の上演作品[2011-]
過去の上演作品[2011-]
Kikan
燐光群 創立30周年記念 第二弾
帰還
作・演出○坂手洋二
<東 京>5月31日(金)~6月9日(日) 下北沢ザ・スズナリ
<名古屋>2013年6月19日(水)名古屋市東文化小劇場
<伊 丹>2013年6月21日(金)~ 23日(日)AI・HALL 共催公演
13/05/31
男は帰ってきた。その集落に。故郷でもない、何十年も訪れたことのない、その場所に。
なぜもう一度その地を訪ねようと思ったのか。
記憶の外に追いやり、封印してきた歴史。日本が高度経済成長期に入る以前の、もはや忘れられたはずの
時代の出来事……。
男は、約束を果たさねばならなかった。
坂手洋二が二年前、東日本大震災の衝撃の中、大滝秀治のために書き下ろした、たましい燃ゆる大作。
1950年代の日本から現在へ。終わりなき精神の彷徨が、受け継がれる。
■当日配布パンフレットより■
ごあいさつ
坂手洋二
「やがてダムに沈む場所」を舞台に劇を書くというのは、ある意味高校生でも思いつきそうなことではあるのだが、いつかそうするだろうといういう予感があった。たぶん二十歳そこそこの頃からだ。
自分がまさにそこにいる風景を、「いつかなくなってしまう場所」と考えるという想像力に惹かれたのだろう。そこに立てば、未来と現在を同時に感じる。「場所」じたいがこの世のものではないかもしれないという、拠り所のなさ。考えてみれば能の多くも、「場所」についての、その土地に縛られた霊魂についての、劇である。複式夢幻能の構造と吉本隆明『共同幻想論』の示唆する「異界」を必要とする世界の、交錯する場所。人々が、未来が定まらないままに「戦後」のその先の世界のあり方を模索した一九五〇年代の日本から、現在にもつながる精神の彷徨を描く舞台として、「ダムに沈む村」を選んだ。
もちろんダムができても、周りには人の住む場所が残る。かつて自分がいた場所を、水面の底に幻視しながらその後の生活を営む者もいるだろう。人はただどこかで生きていくというだけで、複雑でややこしく、面倒なのだ。
舞台のモデルとなっている熊本のその地で、川筋を辿って巡りながら、人間と川の関わりにこだわって生きてきた人たちと出会いつつ、演劇だからできることとは何か、あらためて考えていたように思う。本当にさまざまな人たちにお世話になった旅だった。
ダムの話をやるのに、一部の俳優にダムを見たことがない人もいるというので、猪熊恒和発案で、メンバー有志でダム見学に行った。私としては関東地方なら八ッ場ダムの「建設予定地」を見てほしかったが、ちょっと遠いという事情もあり、多摩川源流から奥多摩湖を擁する小河内ダムに行ったりした。いうならば関東地方の水瓶だ。ダムは一つ一つ目的も条件も違う。それぞれの場所に歴史がある。そのことも改めて認識する。
今回は藤井びん・木之内頼仁の二人の、おそらく二十八年ぶりの共演となる。彼らに出会った時、私は十九歳だった。びんさんには何度か燐光群に出てもらったし、地人会や、蜷川幸雄演出に私が脚色版を書き下ろした『エレンディラ』でも、ご一緒した。ただ、木之内頼仁と一緒にいると、藤井びんもいつもとちょっと違うギアが動き出すのだ。二十歳頃に出会った人たちと一緒に、ある種の「初心」を共有しながら芝居ができるのは、なかなか幸せなことだ。しかもザ・スズナリという、あの頃と同じ劇場である。
二年前、民藝さんで、大滝秀治さん主演ということで、書き下ろしをさせていただくことになり、この題材を選ばせていただいた。今回の燐光群版上演も、快く承諾してくださった。初演関係者の皆さまに、心から御礼申し上げます。
何年前だったか、保坂展人さんの八ッ場ダムへの取材につきあった。壮大なスケールの準備が進められているその場所は、豊かな自然の営みに逆行する、極めていびつな、SFにさえなり得ぬ非現実の違和感に満ちていた。
当たり前のことだが、ダムも一つ一つ違う。私はその後、「川辺川ダム」について調べるため、熊本・五木村へ行き、最後の二日間、ダム湖に沈むかもしれなかったその場所での生活を続けている、Oさんにお会いした。
Oさんは畑を手放した時、畑の土を少しずつ持ち帰りお坊さんにお経を上げて貰ったという。一つ一つの田、一枚一枚の畑から、土を持ってきた。土地が変わったということを先祖に報告するという意味でそうしたのだという。新しい畑に撒こうかという気持ちもあった。祖先との対話、自然との交流を重ねてきたOさんは、言いきった。「文明は人を、弱い存在にする」と。
「3.11」のその日、プロットは完成した。その後、私は、Oさんの決意と、演劇について話しはじめるといつも顔を紅潮させ昂揚する大滝秀治さんの意欲に押されるように、自身の直感を、確信へと固めていった。
坂手洋二
藤井びん 木之内頼仁 鴨川てんし
川中健次郎 猪熊恒和 さとうこうじ
鈴木穣 鈴木陽介 武山尚史
中山マリ 松岡洋子 樋尾麻衣子
横山展子 田中結佳 福田陽子 宗像祥子
ゲストと坂手洋二によるアフタートークあり
3日(月)嶽本あゆ美(劇作家 メメントC)
4日(火)高橋ユリカ(ルポライター)
5日(水)永井愛(劇作家・演出家 二兎社主宰)
6日(木)渡辺洋子(八ッ場あしたの会)
7日(金)保坂展人(世田谷区長)
照明○竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
音響○島猛(ステージオフィス)
美術○じょん万次郎
衣裳○ぴんく ぱんだー・卯月
舞台監督○高橋淳一
演出助手○清水弥生
文芸助手○久保志乃ぶ
熊本弁協力○木下智恵 伊藤匠 森敬博
イラスト○三田晴代
宣伝意匠○高崎勝也
協力○ワンダー・プロダクション M.M.P オフィスチャープ cineman
制作○古元道広 近藤順子
Company Staff○大西孝洋 杉山英之 桐畑理佳 西川大輔 小林尭志 永井里左子 宮島千栄
根兵さやか 橋本浩明 内海常葉 秋葉ヨリエ