過去の上演作品[2006-2010]

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I AM MY OWN WIFE

 

アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ   A PLAY BY DOUG WRIGHT

ダグ・ライト 訳常田景子 演出坂手洋二


<東京>2010年2月6日(土)〜16日(火)吉祥寺シアタ

 

10/02/06

CAST>


川中健次郎 …… シャーロッテの影/シャーロッテ・フォン・マールスドルフ

猪熊恒和 …… シャーロッテの影/ダグ・ライト/アルフレッド・キルシュナー

杉山英之 …… シャーロッテの影/ジョン・マークス/シュタージ職員/SS司令官/刑務所職員/その男/看守

中山マリ …… シャーロッテの影/ディーター・ヨルゲンセン/彼女

鴨川てんし …… シャーロッテの影/ベルフェルデ/ジギー・フルス/文部大臣/モリス

樋尾麻衣子 …… シャーロッテの影/ミンナ・マーリッヒ

松岡洋子 …… シャーロッテの影/ルイーゼおばさん/ブリギッテ・クレンシュ

伊勢谷能宣 …… シャーロッテの影/若いシャーロッテ/クライヴ・トゥインブリー

西川大輔 …… シャーロッテの影/アメリカ兵/ヨーゼフ・ルディガー/ダイスケ・ヤマグチ

鈴木陽介 …… シャーロッテの影/SS将校/デイヴ/キャスター/マーク・フィンリー/ネオナチ1

矢部久美子 …… シャーロッテの影/看護婦/プラディープ・ガスパ

渡辺文香 …… シャーロッテの影/犬のニッパー/ウルリケ・リプトシュ/シャーリー・ブラッカー

横山展子 …… シャーロッテの影/税関職員/フランソワ・ガルニエ

桐畑理佳 …… シャーロッテの影/アンティーク・ディーラー

根兵さやか …… シャーロッテの影/若いロター

橋本浩明 …… シャーロッテの影/若い男/マルクス・カウフマン/カール・ヘニング/ネオナチ2


STAFF>

美術島次郎 

照明竹林功(龍前正夫舞台照明研究所) 

音響島猛(ステージオフィス)音響操作齋藤貴博(ステージオフィス)

衣裳宮本宣子

振付矢内原美邦 

舞台監督森下紀彦 

演出助手武山尚史

宣伝意匠高崎勝也 

美術助手松村あや 

衣裳助手山下和美・石橋育恵 

文芸助手久保志乃ぶ・清水弥生

協力ネイラー, ハラ インターナショナル   クリス   キースリング   ローランド  

棚瀬美幸   高津映画装飾株式会社   C-COM   マイド

小池陽子 安西奈緒美 手代木梓 財団法人セゾン文化財団

Company Staff○大西孝洋  安仁屋美峰  国光千世  向井孝成  宮島千栄  村松みさき 

和田哲郎  秋葉ヨリエ  内海常葉

制作古元道広・近藤順子


主催燐光群/(有)グッドフェローズ (財)武蔵野文化事業団


平成21年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業)



“Original Broadway Production Presented by David Richenthal”


※坂手洋二とゲストによるアフタートークを実施しました。

2月9日(火)7:30の部 宇沢美子(慶應義塾大学文学部教授) 

2月10日(水)7:00の部 常田景子(翻訳家)





当日配布パンフレットより



日本版上演によせて

ダグ・ライト


 私が1990年代のはじめにシャーロッテ・マールスドルフに会った時、彼女は、びっくりするような話をたくさん聞かせて楽しませてくれました。戦争で破壊されたヨーロッパで、ナチスの時代と共産主義の時代を、いかに「彼女」が公然とトランヴェスタイト(異性装者)として生きたかという話、しきたりにとらわれない家庭で、既存の枠にはまらないセクシュアリティを持つことを励ましてくれたレズビアンのおばさんの保護を受けて育ったという話、東ドイツの秘密警察(シュタージ)を何度も出し抜いたという話、そして、危険なまでに体制的な国家で、彼女が自分の生き方を貫くために払った恐ろしい代償のこと。


 2002年に彼女が亡くなった時、私は、深く感動的で道徳的にも教えられるところの多い彼女の物語が、彼女の死とともに消えてしまうことを恐れました。さいわい、この戯曲が、その物語が生き続ける助けになっています。シャーロッテは、生前ほとんど旅をしませんでした。故郷のドイツ国内と、晩年スウェーデンに行っただけでした。でも、「アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ」の登場人物として、シャーロッテは、これまでに、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、ブカレスト、ブエノスアイレス、シドニー、メキシコ・シティ、ダブリン、クラクフ、カラカス、その他多くの都市に姿を現したのです。


 私は、彼女が東京にも姿を現すことを、とてもうれしく思います。今回の公演は、彼女のアジアで初めての公演となります! 彼女の物語が、慣習にとらわれず、時には過激な作品さえも上演することで評価を得ている劇団、燐光群によって上演されることをとりわけ喜ばしく思います。これは、非常に名誉なことです。


 シャーロッテは、常に好奇心を絶やさず、生まれつき優雅で、計算された神秘の感覚をそなえた人でしたから、東京を大好きになっただろうと思います。そして東京も、彼女の訪問を楽しんでくれることを願います。


(常田景子 訳)



When I met Charlotte von Mahlsdorf back in the early 1990's, she regaled me with so many remarkable stories: how "she" lived openly as a transvestite under both the Nazis and the Communists in war-torn Europe; how she grew up in an unconventional household, under the tutelage of a lesbian aunt who encouraged her alternative sexuality; how she routinely tricked secret Police in East Germany; and the terrible price she paid to maintain her individuality in a dangerously conformist state.


When she died in 2002, I feared that her deeply moving, morally instructive tales would die with her.   Happily, the play has helped to keep them alive. During her life, Charlotte traveled very little: around her native home of Germany, and to Sweden in her later years. But as a character in I AM MY OWN WIFE, Charlotte has appeared in New York, Los Angeles, London, Bucharest, Buenos Aires, Sydney, Mexico City, Dublin, Krakow, Caracas and a host of other cities.


I am so delighted that she will soon be appearing in Tokyo; it will mark her first performance in Asia!   And I am especially pleased that her story will be presented by RIN KO GUN, a company esteemed for producing unconventional, even radical work. It is a profound honor.


I know with her constant curiosity, her innate grace, and her calculated sense of mystery that Charlotte will adore Tokyo. I hope that Tokyo enjoys her company, too.


Doug Wright 


劇作家 ダグ・ライトについて

1995年、マルキ・ド・サドを描いた『クイルズ』でオビー賞を受賞。シナリオを担当した映画版は、ナショナル・ボード・オブ・レビュー最優秀作品に選ばれ(アカデミー賞三部門ノミネート)、他の映画脚本に『SAYURI』等があります。ブロードウェイ・ミュージカルも手掛け、トニー賞とドラマ・デスク賞にノミネートされた『グレイ・ガーデンズ』、『リトル・マーメイド』があります。現在ニューヨーク・シアター・ワークショップとドラマティスト・ギルド・カウンシルの役員を務めています。2008年3月、坂手洋二と燐光群のコーディネートにより、日本で「演劇創作と環境整備 ニューヨーク・シアター・ワークショップとアーティストの試み」(主催○日本劇作家協会 会場○芸能花伝舎)として、創作活動と芸術団体の関わりについて、講座を行っています。




Doug Wright  撮影:Joan Marcus



***


シャーロッテの館へようこそ

坂手洋二


『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』は、現代アメリカの劇作家が、ベルリンの戦中戦後を生きた実在の人物、シャーロッテ・フォン・マールスドルフの世界を描く劇である。

 シャーロッテが集めたグリュンダー・ツアイト期のアンティーク家具や美術品を収め、地下には「ムラック・リッツェ」という秘密バー(私には勝手にキャバレーのイメージも湧いてきてしまうのだが)を擁する「博物館」を舞台とする。シャーロッテ自身がその場所の主であり、同時にメイドとして仕えていた。

 ニューヨーク演劇界と燐光群の不思議な縁から、この特殊な形態の戯曲を上演することになった。この劇は、一人芝居として大ヒットしたこともあるし、今回のように、十六人がかりで一人の人物の内面を掘り下げてゆくこともできる。

「パンフレットや挨拶文でこれから上演する芝居の内容をあらかじめ語るなど愚の骨頂だ」と、確か、つかこうへい氏が語っていたが、どうせあからさまなことなので隠すまでもない。今回の上演は「十六人がかりで一人の人間を描く」スタイルを取っている。もちろんそれぞれが他の四十人以上の登場人物を代わる代わる演じ分けながらである。また、人間には、もう一人の自分が自分自身を眺めているような瞬間がある。だからこの「回想の劇」ではごく自然に、シャーロッテが自分自身の分身を演じている場合もある。

 既にオリジナル版・ヨーロッパ版の上演を観たり、英語版の戯曲を読んだりしているお客様もいらっしゃるだろう。念のため、お断りしておく。戯曲の台詞・展開の順序は、いっさい改変を加えていない。二年前、日本でのワークショップのためお招きした際にお話して以来、作者ダグ・ライトと相談し、了承を得た上で、大まかにいえば「分節化」「共有化」という二つの手法で、場面場面のフレーミングを構築し直している。これが今、私たちがカンパニーとしてこの戯曲の言葉に出会うとき、最適な方法である。

 この劇は「ドキュメンタリー」「語りもの」であると同時に、ダグと盟友のジャーナリスト・ジョンが、「ワキ」、「ワキツレ」または「アイ」を担当し、ストーリーを牽引する、「変則の現代能」であるともいえる。

 私たちが十年余にわたって試みてきた「翻訳上演」の可能性の掘り起こしの新たな提示としても、ご覧いただければ幸いである。

 

私、真実なんて、少しも怖くありませんわ。


ルリンの壁が崩れた後、見つかったのは、東ドイツにたった一つ残っていたワイマール時代のキャバレー。

それは、マールスドルフの「彼女」の家の地下に隠されていた。

「彼女」は──秘密警察(シュタージ)の監視の目をかいくぐって──三十年近くも、それを経営していた。

「彼女」は言った。「私が私自身の妻なの(アイ・アム・マ イ・オウン・ワイフ)」。

……現代ニューヨークを生きる劇作家と、東ベルリン・アン ダーグラウンドの生き証人、

シャーロッテ・フォン・マールスドルフの、官能に満ちたスリリングな邂逅!


2004年 トニー賞(作品賞)・ピュリッツァー賞受賞

ドラマ・デスク賞 GLLAD メディア賞 ドラマ・リーグ賞 

アウター・クリティックス・サークル賞 ルシル・ローテル賞 受賞


ダグ・ライト(「グレイ・ガーデンズ」「リトル・マーメイド」「SAYURI」)の最高傑作、日本初演!