過去の上演作品[2001-2005]
過去の上演作品[2001-2005]
LOST IN THE WAR/Blindness
私たちの戦争
LOST IN THE WAR 台本・演出=坂手洋二
「落書き反戦裁判」公判・インターネット資料
「アブグレイブ刑務所での『虐待』」インターネット資料等
ブルキッチ加奈子「個人に対する警察による弾圧について」より
戦場イラクからのメール 台本・演出=坂手洋二
渡辺修孝『戦場イラクからのメール』より
(安田純平著『囚われのイラク』からも引用させていただきました)
Blindness[盲目] 作=マリオ・フラッティ 訳=立木アキ子 演出=坂手洋二
<東京>7月15日(木)~ 8月4日(水)下北沢ザ・スズナリ
<伊丹>8月13日(金)~ 15日(日)AI・HALL [共催公演]
<名古屋>8月19日(木)天白文化小劇場
04/07/15
<CAST>
中山マリ …………… 鑑定人 中年女 女
川中健次郎 ………… 老人 家の主 地主4 ラムズフェルド アルベル ドライバー
老人(家主) 年輩の覆面
猪熊恒和 …………… 課長 男 佐藤一佐 デモ参加者D 男 男A 覆面の男
下総源太朗 ………… 尋問要員 ブライアン
大西孝洋 …………… 検事 wattan(渡辺修孝)
鴨川てんし ………… 幹部 隣人 アンダーソン
Kameron Steele …… ジム 夫
Ivana Catanese …… 女
江口敦子 …………… G スージー
宮島千栄 …………… 社員 キャシー
内海常葉 …………… M カシーム 失業者E 地主5 日本政府高官 デモ参加者E 通訳 男D
向井孝成 …………… K 失業者A 地主1 デモ参加者A 若い覆面
瀧口修央 …………… T 自衛隊員 安田純平
工藤清美 …………… 女刑務官
裴優宇 ……………… 警官 刑事2 巡礼者2 失業者B 地主2 デモ参加者B 若者
男F 別な覆面の男
久保島隆 …………… 刑務官 ダン
杉山英之 …………… 軍曹 若い係員 巡礼者3 失業者C 地主3 デモ参加者C
ムハンメッド 対向車の運転手 男C,E
小金井篤 …………… 警官 刑事1 巡礼者1 失業者D 店長 デモ参加者F 男B
運転の男
亀ヶ谷美也子 ……… 子供 少年A 書き込みB
塚田菜津子 ………… 子供 少年B 書き込みA
<STAFF>
照明=竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
音響=島猛(ステージオフィス)
音響操作=鈴木三枝子(ステージオフィス)
舞台監督=海老澤栄
美術=じょん万次郎
衣裳=大野典子
演出助手=鈴木章友・吉田智久
衣裳助手=樋尾麻衣子 桐畑理佳
文芸助手=圓岡めぐみ・清水弥生・久保志乃ぶ
美術助手=宇賀神範子
宣伝意匠=高崎勝也
舞台写真=大原拓
協力=高津映画装飾 現代座会館 社会批評社 林高士
安達由高 山松由美子 丸岡祥宏
岡野彰子 小池陽子 佐藤泰紀 城間優子
園田佳奈 田中星乃 寺島友理子 仲川百合子
増永紋美 宮島久美 八代名菜子 吉村敦子
制作=古元道広・國光千世
平成16年度文化庁芸術団体重点支援事業
アフタートークを行いました。
7月15日(木) 出演=マリオ・フラッティ 立木アキ子 坂手洋二 (協力=青年劇場)
7月18日(日) 出演=渡辺修孝 坂手洋二
坂手洋二が点描する「戦時下」ニッポンの風景。
渡辺修孝が体験した戦場イラクでの「誘拐」。
ミュージカル『ナイン』でトニー賞に輝くマリオ・フラッティが、
書かずにはいられなかったイラク戦争帰還兵の物語。
世界に先駆けて今夏上演。
<当日パンフレットより>
FRATTI ON THEATRE
From Aristophanes to Bertolt Brecht, political theatre has been the most important theatre.What's political? The origin of the word is Greek (polis, city).
Every writer who loves his polis, his city, his society, has the duty to describe it, to improve it. My play "Blindness" is clearly political. I care about my society, the young soldiers who are dying in a futile, blind, unnecessary, tragic war. In America going to a university is very expensive (between twenty and thirty-five thousand dollars a year). Young men who cannot afford such huge tuition costs,become volunteers in the army because they are told they will have no tuition to pay after afew months of military service. Then, Washington lies to them and sends them to fight and die in a hostile country that hates being occupied. I want those young soldiers to come home so they can enjoy their families. That's why I wrote "Blindness".
Please stress the fact that I was inspired to write "Blindness" by three articles in the New York Times. New York Times correspondents and other American critics who may be very interested in the connectuib between the NY Times and my play.
Mario Fratti
古代の劇作家アリストファネスから現代演劇のブレヒトに至るまで、ポリティカル・シアタ-(political・theatre=政治的・演劇)は演劇の一形態として最も重要な地位を占めて来ました。ポリティカルという言葉は何を指すのでしょうか?
この言葉はギリシャ語のポリス(polis/city=都市)に由来します。
自分のポリス、すなわち都市とその社会を愛する劇作家であれば、誰でも、ポリスについて表現し、またそれを改善していく義務を負っていると言えます。私の書いた『Blindness[盲目]』がポリティカルな作品であることは明白です。私は自分の社会のことが気にかかり、同時に、不毛で盲目的、不必要で悲劇的な戦争のために命を落としている若者のことが心配でなりません。アメリカでは、大学に進学するのに莫大な学費(年間約2万から3万5千ドル程)がかかります。そのため、多額の授業料を払えない若者達は、ボランティアとして軍隊に志願します。なぜなら、数ケ月間軍隊に奉仕すれば授業料は免除されると、聞かされているからです。政府は軍隊に誤った夢を抱かせ、アメリカの占領を嫌い、敵意を抱く国での戦闘に彼らを送り込んでいます。私はこれらの若者たちが無事に祖国に帰り、家族との大切な時間を心から享受して欲しいと願っています。それが、私がこの作品を書いた理由です。
さいごに、この作品を書くにあたって、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された三つの記事から触発を受けたということも申し添えておきたいと思います。同紙の特派員やアメリカの批評家諸氏は、私の作品とニューヨーク・タイムズの記事との関係に、関心をもってくれることでしょう。
Mario Fratti(マリオ・フラッティ)
※『Blindness[盲目]』は8月6日よりバルセロナ、9月にスイス、10月10日よりローマでの上演が予定されています。他にも5カ国8公演が制作中です。
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マリオ・フラッティ+坂手洋二に期待
立木アキ子
他者への不寛容を露にし、社会的正義や人間の尊厳さえも巧妙に無視されていく時代に、演劇は現実とどう関わり、どのような役割を果たしていくべきなのか。最近舞台を観ていて心を離れないのがこのことだ。時代を映すだけでなく、現実を批評し、共存や平和の新たな視点を示唆することができたら……。
焦燥感とともにそんな思いにとらわれていた冬のある日、ニューヨークで活躍される劇作家のマリオ・フラッティ氏より一通の封書が届いた。国際演劇評論家協会の会員として総会でお会いしたことがあるとはいえ、それ程存じ上げてもいない。何事かと思いつつ開けてみると、「この戦争を止めたい」という簡単な手紙とともに書き下ろしの新作が同封されていた。『Blindness[盲目]』である。副題に「イラクの悲劇」とあり、イラク戦争で盲目となったアメリカの帰還兵を題材としたシンプルな構成の反戦劇である。抑制された台詞の行間に他者への差別や戦争の苛酷さ、無益な戦争へと若者達を駆り立てたブッシュ政権への怒りがストレートに表現され、共感を覚えた。大文字で語られがちのアメリカとは違う苦悩する個人の素顔が描かれており、日本へ紹介する価値があると考えた。
ニューヨーク・タイムズの記事に触発されて生まれたこの作品を誰に託すか、演出家に迷いはなかった。独自の調査、分析を基にした臨場感溢れる<ドキュメンタリー・ドラマ>を立ち上げている坂手洋二さん以外に、事実に取材する本作品の魅力を的確に表現してくれる人はいないと思われたからだ。奇しくもアメリカ滞在中だった坂手さんはフラッティ氏と直接に会い、すぐさま上演を決められた。
人質問題、アブグレイブ刑務所の拷問事件、続発するテロなど現実は虚構を凌駕する強烈さで推移している。最近の報道によれば、多国籍軍の死亡者が千人を超える一方、イラク民間人の犠牲者は、1万3千人(イラク・ボディカウント)にも達するという。上演にあたって、坂手さんは、本作品とともに渡辺修孝さんの体験等をもとにした新作を同時上演、複眼的な視点でプログラムを組まれたほか、自衛隊を扱った秀作『だるまさんがころんだ』を日替わりで上演、問題を客観的に検討する工夫をされている。タイムリーなばかりでなく、周到・適切な企画だ。危うさを秘めた時代に、観劇の場が、ささやかでも平和を考える機会になることを願ってやまない。
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『私たちの戦争』へのメッセージ
渡邉修孝
私は今年の3月にイラクへ自衛隊の現地活動の観察と、「非戦闘地域」と日本政府から限定されている場所の状況が実際にどうなっているのかを調査するために訪問しました。ところが現地で私が目にしたものは、日本政府がマスコミに報告していたこととはずいぶん違っていることに驚いたのです。そして、私と安田純平氏がイラク・ファルージャ近郊で地元の民兵組織に身柄拘束されて初めてわかった米軍の捕虜虐待の事実。抵抗勢力の広範な大衆運動としての質的力量の高さ。いずれも実際に地元の民衆と接してみなければわからないことばかりでした。こういったことは日本のメディアはもちろんのこと日本政府・外務省ですら把握できなかったことばかりなのです。
日本政府は、拘束から解放された私たちに対して「自己責任」が足りなかったのではないかという追求をマスコミを使って、しきりにナーバスな陽動を展開しました。しかし、彼らの使う言葉は「自己」ばかりが強調されて、社会の「共同責任」ということを何処かに置き忘れてしまっているのではないかとさえ思えました。これを国家に置き換えて表現するならば、「政府は政治責任を何処かに忘れてきた」と言えるのではないでしょうか。彼らは、今後どうやって責任を果たしてゆくのでしょう。私はイラクで、あくまで自分の身の丈に合った視点から現地の実情を捉えてきました。この劇では、それがどのように表現されるのか楽しみです。
渡辺修孝(わたなべのぶたか)
元陸上自衛官 習志野第1空挺団・特科部隊(1任期2年で退職)退職後、死刑廃止運動やパレスチナ支援運動に関わる。2年前から「イラク反戦運動」に関わり、「米兵・自衛官人権ホットライン」発足当初から賛同会員として支援・活動していた。「在イラク自衛隊監視センター」のスタッフとして、2月26日から約6ヶ月の滞在予定でイラク入りしていた。37歳。
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ご来場ありがとうございます
坂手洋二
立木アキ子さんから、マリオ・フラッティ氏の新作『Blindness [盲目]』の日本上演についてお話をいただいた。一読して「受けて立とう」と決めた。現在を「戦時下」と考える米国・日本の演劇人が組むことじたいに意義はあるだろう。加えて、このようにシンプルな室内劇に取り組むことも、私たちにとっては希有な「試み」である。
『Blindness [盲目]』は短編である。単独の上演ではなく、別なパートと組み合わせなければならないと考えた。作者の要望通り、この作品は一番最後に置くことにしたが、アメリカでの出来事に対応して、日本での「事件」を描く部分が必要だった。まず頭に浮かんだのは、「反戦落書き裁判」のことであった。第一審が結審し、まとまった資料に目を通したばかりだった。
ニューヨークでマリオさんと打ち合わせをしていた頃、イラクで日本人が誘拐されたというニュースを聞いた。帰国直後、二度目の拘束事件の報を聞き、二人のうち一人が、私も発起人である「米兵・自衛官人権ホットライン」が派遣した渡辺修孝さんだと知った。解放・帰国後、いろいろと話し合ううち、拘束前から電子メールで送られてきていた彼の「イラク報告」を、そのまま劇にしようと思いたった。
インターネット上には、アブグレイブ刑務所での「虐待」について、夥しい数の報告がなされている。それらを具体的な像に立ち上げることも考えた。
「立川自衛隊監視テント村」のメンバー三人が「米兵・自衛官人権ホットライン」の「イラク派兵反対」ビラを自衛隊官舎の郵便受けに配布したところ、「住居侵入」にあたるとして逮捕される事件も起きていた。三人は二ヶ月半にも及ぶ留置を受け、公判が始まるまで釈放されなかった。そうした中で、米国大使館前で抗議デモを続けていた女性が弾圧されていることも知った。
そうして日本側のパートも情報が揃ってきたが、今回、私は「原本」や「資料」に対して、なるべく徹底して「書き加えない」ようにしてまとめる方針をとった。
ここに描かれていることに誇張はない。ほとんど全てが、フィクションではなく現実なのである。
7月4日にも、自衛隊のイラク派遣・多国籍軍参加に反対する団体がデモ中、「警官隊による妨害」に遭い、抗議した関係者ら三名が逮捕された。
『だるまさんがころんだ』とは違う方法で、シンプルに「演劇」を行おうとする意志によって、こうした現実の推移に対していかに向き合えるか、試してみたいと思う。
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☆「反戦落書き」事件
2003年4月、東京都杉並区の児童公園内のトイレ外壁にラッカースプレーで落書きをした青年Kが、器物損壊容疑で現行犯逮捕、やがて建造物損壊により起訴された。落書きの内容は「戦争反対」「反戦」「スペクタクル社会」。「スペクタクル社会」は、1950年代、フランスの思想家ギー・ドゥボールが唱えた概念。多くの人々が受動的な観客の位置に押し込められ、「見せ物」「イベント」の価値観による支配を容認してしまった世界、資本主義の究極の統治形態をいう。彼は逮捕から44日後、ようやく保釈が認められたが、今年二月、第一審では懲役1年2月・執行猶予3年の判決が出された。
☆米国大使館前「昼休み抗議」事件
勤務中の昼休みの時間、個人的にアメリカ大使館前で「イラク戦争反対」など、アメリカの外交政策に対する反対・抗議を続けてきた女性が、幾度も仕事場で事情聴取をされる、脅迫ファックスを送りつけられる、外国籍の夫に対する嫌がらせのポスターを貼られる、インターネット上でテロリストと中傷される等、様々な迫害を受けた。現在は「道路工事中」を理由に抗議場所の変更を命じられ、大使館から出てきた人に対して顔のすぐ前でハンドマイクを使って怒鳴りつけたとして「暴行容疑」の「捜査」を受けている。
☆アブグレイブ刑務所の「虐待」
バグダッド中心部から西へ約25キロにある刑務所。フセイン政権時代は多くの反体制派・政治犯を収容。拷問や処刑を繰り返し「恐怖政治」の象徴とされた。イラク戦争後に米軍が接収、拘置施設として改修し、反米抵抗活動を繰り返すフセイン政権残党などの容疑者を拘束した。武装勢力やテロに関する情報を持つと見られた「貴重な収容者」たちに対する「虐待」の事実が明らかになっている。