過去の上演作品[2006-2010]

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My nostalgia like a butterfly[Suite,Solitude of the 20th century]

 

組曲二十世紀の孤独 第一楽章

蝶のやうな私の郷愁 改訂版(東京初演)

松田正隆 演出鈴木裕美


<東京>2006年8月1日(火)〜8月10日(木) SPACE雑遊SPACE雑遊 オープニング企画

 

06/08/01

CAST>

 ・・・・・・・・・ 坂手洋二
女  ・・・・・・・・・ 占部房子


STAFF>

美術奥村泰彦 

照明中川隆一 

照明操作古賀龍平
音響○堀江潤(オフィス新音)
舞台監督○森下紀彦 

舞台監督助手楠原礼美子 

衣裳山下和美
演出助手○坂田恵 

舞台協力内海常葉 

宣伝写真加藤孝
宣伝意匠○高崎勝也 

設営協力鈴木等(スペースライン)
制作○古元道広 近藤順子 小池陽子  

協力太田篤哉(SPACE 雑遊 オーナー)
小野事務所 自転車キンクリーツカンパニー MONO オフィス新音
宮本宣子ワークショップ C-COM 高津映画装飾株式会社
イデビアン・クルー
秋山秀樹 岩橋毬 岡本有紀 加藤真砂美 河本三咲 菅野さおり
小林鏡 小林優 園田佳奈 田中星乃 増永紋美 八代名菜子
矢野志保 湯本ちひろ

それは、台風の日のことでした。

当日配布パンフレットより

 今回の『蝶のやうな私の郷愁』は、以前からこの戯曲がやりたいと考えていた占部さん が、相手役に坂手さんを指名し、ご指名を受けた坂手さんは、もともと構想していた企画とのシンクロニズムを感じ、「組曲 二十世紀の孤独」という連作として上演する運びになったと聞いています。つまりある意味プロデューサーが二人いて、その二人が二人芝居を演じるのだが、お まえ演出をやってみないか、というお話を頂いた訳です。恐ろしい話です。が、ここで引いては女がすたると思いました。松田正隆さんの戯曲と、「雑遊」とい う新しい空間に出会わせて貰えることも大きな魅力でした。
 実際稽古をしていて、松田戯曲はとても魅力的です。一つの言葉に大抵二つ以上の意味があり、山の話をしているようで実は川の話をしていたり、淡々と会話 しているように見えるのに、一つの句読点の前と後ではもう気持ちが変化しているような戯曲です。占部さんの言葉を借りれば、「俳優はものすごく忙しい」。 稽古場での私たちの作業は、ピンターやオールビー作品を稽古しているのと似ていると感じます。
 以前にも書いたことがあるのですが、あるインタビュー番組で俳優のトム・ハンクスが、「全てのすぐれた戯曲は孤独をテーマにしている」と話しているのを 見たことがあります。私も、“孤独な人間がどのように人と関わろうとあがくのか”ということが書かれている戯曲に魅力を感じます。
 小さな孤独たちが、小さな空間で、小さな小さな神話を形作るところを、お目にかけられたらと思います。

鈴木裕美

鈴木裕美(すずき ゆみ)
東京都出身。1982年に「自転車キンクリート」を結成。「自転車キンクリートSTORE」(プロデュース公演の名称)も含め、ほとんどの作品を演出。昨 年は【テレンス・ラティガン3作連続公演】の企画及びその内の一作『ブラウニング・バージョン』の翻訳・演出を手がけ、高い評価を受ける。近年は外部作品 の演出も多く、『フロッグとトード』『アンナ・カレーニナ』『マダム・メルヴィル』『高き彼物』『ピーターパン』『ダム・ウェイター』『おはつ』など、小 劇場から大劇場、翻訳劇、ミュージカルまで幅広く活躍。第35回紀伊國屋演劇賞個人賞、第8回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。

***

 「組曲 二十世紀の孤独」は、二十世紀に書かれた戯曲を再構成し、二十世紀という「小過去」を対象化し、演劇と世界の変遷を見つめ直そうとする作業である。
 当初の構想は、野外に一つの大きな「街」を作り、そこで「二十世紀的なるもの」を交錯させようとするものだった。同一の空間で起きる様々な断片の堆積に よって構成する、いわば「ごった煮」をイメージした。
 そのためには、劇団としても総力戦であたり、また、関心を共有できる方々に参加していただくことが必要だと考えた。幾多の出会いとディスカッションが あった。
 そして、諸事情と積極的な方針変更により、全体像は変わってきた。
 じつのところ、長期間にわたって「街」をつくる作業を可能とする野外空間を都内に確保することは困難だった。
 幸い、「雑遊」との出会いがあった。新しい「なにもない空間」を劇場としていくことのダイナミズム、そして、過去と人間のにおいを湛えた「新宿」という 街の特性が、この企画に新たなアプローチを与えてくれた。
 我々は「ごった煮」から「定点観測」へと方針を変えた。断片を三つに絞った。三本の戯曲から、私たちの抱えた「二十世紀的なるもの」の混沌へと、足を踏 み入れてゆくことにした。
 『蝶のやうな私の郷愁』は、本当に細く小さな穴から覗いた世界であるが、松田正隆戯曲のエッセンスが詰まっている。鈴木裕美さん、占部房子さんとの出会 いで実現した。
 『さすらい』は、私が17年前に書いた戯曲である。自分自身、あらためて、「この17年」に対する距離感がうまくとれないでいることに気づいた。おおこ うちなおこさんが、「昭和」と「平成」の狭間を描いたこの劇に着眼されたことに、期待し、興奮している。
 『壊れた風景』は、別役実さんによる、一九七十年代後半の、小市民たちを描く連作の一つだが、他の別役戯曲と違う特性を持っている。それゆえに、このシ リーズに組み込むことが可能になっているともいえる。燐光群と川畑秀樹さんの共同作業としても、新境地を示すことができるのではないかと思う。
 稽古場では、創作過程の中で、全体像、あるいは個別の行為や台詞について、「ああ、このことが、まさに『二十世紀の孤独』なのか」という声が聞こえ始め ている。
 「二十世紀的なるもの」についてのイメージは、人それぞれであろう。だが、私たちがこの数ヶ月の間に得た手応えについては、この三つの点景が浮かびあが らせてくれるはずだと思う。
 そして私は、「ごった煮」版のほうも、いずれ実現させたいと思っている。

坂手洋二