過去の上演作品[2001-2005]

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The Elephant

 

燐光群アトリエの会


作=別役実
演出=坂手洋二


<東京>2003年7月3日(木)〜24日(木) 梅ヶ丘BOX

03/07/03

男 静かに死んでしまいたいとは思いませんか?

病人 思わないね。俺はむしろ、死ぬ前に殺されたいと

思っている。
 
看護婦 最初は、鼻血が出るんです。誰でも、そうで

すわ。最初は、鼻血なんです。それからですわ……。


戦争は終わった。誰もがそう信じていた夏。
焼跡の廃墟に太陽がぎらつき、リヤカーを引く影が滲む。
……あの街に、ケロイドの裸男が帰ってきた。


2003年、大量破壊兵器は、イラクでは見つけられなかった。

1945年夏、それはあの街の上空で、確実に炸裂した。


新国立劇場『マッチ売りの少女』に続いておくる、別役戯曲

+坂手演出・第二弾!

CAST>

…………………下総源太朗
病人………………猪熊恒和
妻…………………中山マリ
医者………………川中健次郎
看護婦……………江口敦子 宮島千栄 宇賀神範子
        工藤清美 亀ヶ谷美也子 塚田菜津子
通行人1・影……小金井篤
通行人2・影……向井孝成
影たち……………裴優宇 内海常葉 久保島隆 杉山英之


STAFF>
美術・音響=じょん万次郎
照明=ベルント・エルブス
演出助手=大河内なおこ
舞台監督=海老澤栄
衣裳=大野典子
美術協力=加藤ちか
照明協力=竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
音響協力=島猛(ステージオフィス)
照明操作=桐畑理佳
音響操作=工藤清美 亀ヶ谷美也子 
宣伝意匠=高崎勝也
イラスト=幸剛
Company staff=大西孝洋 鴨川てんし 丸岡祥宏 瀧口修央 樋尾麻衣子 久保志乃ぶ
協力=高津映画装飾株式会社 
   寺島友理子 藤本直樹 森川万里 宮島久美 櫻井千恵 渡辺郁子 岡野彰子 
   今井由紀 春日智子 劇団螺船 実験劇場
制作=古元道広・国光千世・大場さと子・川崎百世


平成15年度文化庁芸術団体重点支援事業 

当日配布パンフレットより


本日はご来場いただきまして、誠にありがとうございます。

……さて。
いうまでもなくここは地下室である。
いったんここに籠もってしまうと、地上の出来事は遠いものに感じられる。
午前中から来ていても、気がつくと夜だ。
街の日常から隔絶した世界に身を置いている。
一種の「シェルター」のようなものだ。
私たちの劇団は、もう十二年以上、「ここ」にいる。
……脱出するのか。同じところで新たな発見をするのか。
演劇にとって、「場所」とは何か。
そうした「考察」を必要とする、最低限の「共通認識」が、この場所での上演の、スタートラインだ。

別役実さんの『象』については、今さら言うまでもない。
まさか自分が上演することになるとは思わなかった。
芝居を始めてからずっと、気になる戯曲だった。二十歳頃には映像化したいと思ったことさえある。
ある時期、『象』に於ける「男」と「病人」の関係は、『白鯨』の「イシュマエル」と「エイハブ船長」に似ていると感じたが、じっさいに作品に向き合ってみると、そうでもない。
『象』は『象』なのだ。
中枢の部分では、演劇史・文化史は、関係ない。
これは、当時二十代前半だった作者の、個的な「たましいの叫び」だ。
この発見は、意外と、重い。

……夏に行うアトリエ公演企画について候補を挙げ、「どの作品の、どの役を、やりたいか」について、俳優たちに問いかけた。
圧倒的多数が、『象』を選んだ。
正直、驚いた。
この手強い戯曲を、今現在の「演劇」にするための努力、取り組みを、みんな、本気でするというのか。
……あまり時間的な余裕のない中、私たちはこの仕事に向き合った。
結果として、私たちにとって重要な上演となったと思う。
「現在」にこの作品を創造したことによって、観客の皆さん、そして作者・別役氏はじめとする方々と共有・共感するものを得られたのは、ありがたいことだ。
その初日から五ヶ月余の間に、戦争による死を「やむをえない」と言って憚らない「日本人」をうみだす伝染病のようなものが、蔓延している。
二ヶ月半に及ぶ『CVR』ツアーが終了して三日後にこの追加公演の幕を開けるという冒険と大胆が、何故必要なのか。「二十周年」を越えてしまった私たちは、あらためて自分自身と抱えてきた時間に、問いかけている。
見届けていただきたい。


坂手 洋二