過去の上演作品[2001-2005]

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YANEURA [2003]

 

屋根裏

作・演出=坂手洋二


<東京>5月8日(木)~21日(水) 梅ヶ丘BOX

<浜松>5月23日(金)〜25日(日) スタジオふう

<仙台>5月27日(火)・28日(水) せんだい演劇工房 10-BOX

03/05/08

読売文学賞
紀伊國屋演劇賞
読売演劇大賞[最優秀演出家賞]受賞

世界一小さな舞台空間から発信する「超演劇」。

演劇を再生させる圧倒的「事件」。

2002年を席巻した話題作が、またもや登場!

これは発明なんだ

今も誰かがあの屋根裏に立て籠もっている

そう考えただけでもう一日生きてみようかと思うことができる

そういう発明なんだ

CAST


中山マリ………父 女 婦人 ウメさん
川中健次郎……中年男 主任 紳士 母 タケさん
猪熊恒和………兄
大西孝洋………帽子の男
下総源太朗……刑事1 素浪人1 死体 息子 戦闘服1
江口敦子………少女
丸岡祥宏………松葉杖の男
樋尾麻衣子……若い女 白い女
宇賀神範子……女 青い帽子の若者 ぬいぐるみの女
内海常葉………バイヤー
向井孝成………刑事2 素浪人2 青年 戦闘服2
瀧口修央………ハセガワ 若い男
宮島千栄………キャスター 先生
裴優宇…………赤い帽子の若者 マッちゃん
小金井篤………少年
杉山英之………つなぎの男
久保島隆………変装した人
依田由布子……変装した人



STAFF


照明/竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
美術/じょん万次郎
舞台監督/海老澤栄
衣裳/大野典子
美術協力/加藤ちか
音響協力/島猛(ステージオフィス)
音響/じょん万次郎 内海常葉
音響操作/内海常葉 亀ヶ谷美也子 江口敦子
演出助手/寺島友理子
文芸助手/久保志乃ぶ
宣伝意匠/プリグラフィックス
Company Staff/桐畑理佳 工藤清美 鴨川てんし 高野旺子 塚田菜津子
協力/高津映画装飾株式会社 Theatre Group "OCT / PASS " TIME Create
   藤本直樹 宮島久美 櫻井千恵 岡野彰子 箆津侑子 黒木大樹 劇団螺船
制作/古元道広 国光千世 大場さと子 川崎百世
後援/(財)仙台市市民文化事業団
燐光群アトリエの会

平成15年度文化庁芸術団体重点支援事業





当日配布パンフレットより


この箱の中に宇宙が

巽 孝之


 上手い舞台や強烈な舞台は、枚挙にいとまがない。だが、くりかえし語りたくなるような舞台は、やはり稀だろう。わたし個人にとっては、1970年代なら寺山修司の『中国の不思議な役人』が、1980年代ならデイヴィッド・ヘンリー・ホアンの『M.バタフライ』、そして1990年代なら坂手洋二率いる燐光群の『天皇と接吻』がそうであった。これらは、それぞれの生きた時代のかたちそのものを舞台に活かし、現在進行形のリアリティを感じさせてくれた。
 やがて世紀が移ると、寺山リメイクが流行し、ホアンは自ら古典リメイクにばかりかまけるようになったが、坂手洋二の想像力は衰えるところを知らず、21世紀にふさわしいモードによる独創的な新展開を続行中だ。その収穫が、2002年5月に発表され、同年度の読売文学賞戯曲部門賞受賞作となった『屋根裏』である。
 この作品は基本的に、「屋根裏」という名のキットが都市空間に散乱し、思いもつかないかたちでどんどん転用されていくさまを描く。もともと屋根裏は狂気の潜む空間として想定されることが多かったが、ここに登場する屋根裏キットは変幻自在。作中言及される江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』をはじめ、安部公房の『箱男』、それにフィリップ・K・ディックの『虚空の眼』からウィリアム・ギブスンの『カウント・ゼロ』まで、このドラマは多様な文学作品を連想させつつも、まったく独特なスピード感とともに疾走して時間と空間の限界を突破し、恐るべき結末へ向かって収斂していく。
 昨年5月の初演を観て感動したわたしは、折も折、<スタジオ・ヴォイス>誌2002年8月号が企画した鼎談で、精神科医の斎藤環氏、文化批評家の森川嘉一郎氏に同作品を紹介する機会を得た。絶妙のタイミングというしかない。というのも、斎藤氏は一貫して境界例や社会的引きこもりの視点から現代人の病理を究明しようとしてきたし、森川氏は今日では個人個人の内宇宙が相互循環する秋葉原のような都市がいちばんリアリティをもつことを分析してやまないからだ。だが『屋根裏』という、それ自体屋根裏のごとき梅ヶ丘BOXで演じられる極小の舞台空間は、文学にも精神分析にも都市工学にも連環しながら無限に拡張し続け、そのあげく極大の時代空間全体をまるごと呑み込むような箱宇宙を露呈してみせる。そう、『屋根裏』のいちばんの魅力は、それを目にしさえすれば、わたしたちの生きている世界の成り立ち自体について、いくらでも語り明かせることだ。あなたがこれから眼にするのは、とてつもなく楽しく、そしていちどハマったら抜け出せない戯曲なのである。


巽孝之(たつみ・たかゆき)
1955年東京生まれ。コーネル大学大学院修了(Ph.D.,1987)。現在、慶應義塾大学文学部教授。アメリカ文学専攻。代表的著書に『サイバーパンク・アメリカ』(勁草書房 1988年度日米友好基金アメリカ研究図書賞)、『ニュー・アメリカニズム』(青土社 1995年度福沢賞)、編訳書にダナ・ハラウェイ他『サイボーグ・フェミニズム』(トレヴィル 第2回日本翻訳大賞思想部門賞)、ラリイ・マキャフリイ『アヴァン・ポップ』(筑摩書房)、編著に『日本SF論争史』(勁草書房 第21回日本SF大賞)ほか。共著にStorming the Reality Studio (Duke UP,1991)など。




早川書房「屋根裏/みみず」