過去の上演作品[2001-2005]

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The Laramie Project[2003]

 

ララミー・プロジェクト

=モイセス・カウフマン + テクトニック・シアター・プロジェクト

=常田景子

演出=坂手洋二


<横浜>3月1日(土)~ 4日(火)相鉄本多劇場 [横浜アートLIVE2003 演劇祭交流事業]

<松本>3月8日(土)~ 9日(日)ピカデリーホール

<東京>3月12日(水)~ 16日(日)東京芸術劇場 小ホール1 [現代舞台芸術セレクション]

 

03/03/01

<カウボーイの故郷>を満たした、憎悪と祈り。

全米が注視する<ヘイト・クライム>の真相を求め乗り込んだ

オフ・ブロードウェイの劇団員たちが出会った<真実>とは?

……「演劇」と「現実」が織り成す、奇跡のコラボレーション。

ニューヨーク演劇界を震撼させた、「ドキュドラマ」最新傑作。

アメリカ版演出家モイセス・カウフマン自身による映画化

(出演=ピーター・フォンダ、クリスティナ・リッチ、スティーブ・ブシューミ他)が、サンダンス映画祭で話題沸騰。

燐光群による日本版、待望の声に応え、二年ぶりの東京・横浜公演決定!

撮影=大原狩行(上記全て)


CAST


すべての俳優は、テクトニック・シアター・プロジェクトの劇団員と、彼らが取材したララミーの住人たちを演じる。


中山マリ………レベッカ・ヒリカー(ワイオミング大学演劇学科長) 

       アマンダ・グロニッチ(テクトニック・シアター・プロジェクトの劇団員)

       マージ・マレー(社会福祉関係職員 レジー・フルーティーの母親) 

       バプティスト派牧師 キャサリン(ララミーの住人) 

       シェリー・ジョンソン(ハイウェイ・パトロール職員の妻) 

       ルーシー・トンプソン(加害者ラッセル・ヘンダーソンの祖母) 書記官


鴨川てんし……デュボイス学長 ジョナス・スロネイカー(ララミーの住人)

       ジェフリー(ララミーの住人) 

       ビル・マッキニー(加害者アーロンの父親) 

       アンドリュー・ゴメス(ララミーの住人元服役囚) 牧師 

       ザッキー・セルモン(ララミーの住人)


川中健次郎……モイセス・カウフマン(テクトニック・シアター・プロジェクトの劇団員)

       ジョン・ピーコック(ワイオミング大学教授) ロジャー神父 

       ハリー・ウッズ(ララミーの住人) 判事 

       デニス・シェパード(被害者マシュー・シェパードの父親)


猪熊恒和………アンディ・パリス+ジョン・マックアダムス(テクトニック・シアター・プロ

       ジェクトの劇団員) スティーヴン・ミード・ジョンソン(牧師) 

       ルーロン・ステイシー(プードル・ヴァレー病院理事長)


下総源太朗……ドク・オコナー(リムジン運転手) 

       スティーヴン・ベルバー(テクトニック・シアター・プロジェクトの劇団員)

       カウボーイ(カウボーイ・バーの客) 

       マット・マイケルソン(ファイアーサイド・バーのオーナー) 

       ジョナス・スロネイカー(ララミーの住人) ロブ・ドブリー刑事 

       フレッド・フェルプス(宗教家)


大西孝洋………グレッグ・ピエロッティ(テクトニック・シアター・プロジェクトの劇団員)

       ヒング巡査部長 ダグ・ローズ(モルモン教会ララミー支部集会指導者) 

       キャントウェイ医師 ジム・ゲリンジャー知事 

       アーロン・マッキニー(加害者) パム・シアーズ(ララミーの住人)


江口敦子………アイリーン(牧場主) 

       バーバラ・ピッツ(テクトニック・シアター・プロジェクトの劇団員) 

       アリソン・ミアーズ(社会福祉関係職員) 

       レジー・フルーティー(保安官事務所職員) 

       キャサリン(ララミーの住人)


丸岡祥宏………マット・ギャロウェイ(ファイアーサイド・バーのバーテン) 記者


宮島千栄………レポーター エイプリル・シルヴァ(ワイオミング大学学生) 

       キャサリン(ララミーの住人)


樋尾麻衣子……ウエイトレス 

       シェリー・アーノンソン(加害者ラッセル・ヘンダーソンの友人) 記者


向井孝成………ジェディダイア・シュルツ(ワイオミング大学学生) 

       アーロン・マッキニーの友達 記者


瀧口修央………シャドー(ファイアーサイド・バーのDJ) カル・レルーチャ(検事)

       デイヴィス牧師 ジョナス・スロネイカー(ララミーの住人)


宇賀神範子……リー・フォンダコウスキー(テクトニック・シアター・プロジェクトの劇団

       員) クリスティン・プライス(加害者アーロンの恋人) 

       アーロン・クライフェルズ(ワイオミング大学学生 被害者の第一発見者)

       ケリー・ドレイク(記者) 


内海常葉………フィル・ラブリー(被害者マシュー・シェパードの友人) 記者 

       ザッキー・セルモン(ララミーの住人) ラッセル・ヘンダーソン(加害者)


工藤清美………トリッシュ・スティーガー(ロメインの姉)


一色忍…………ローズ・リチャードソン(タクシー運転手) 

       ロメイン・パターソン(被害者マシュー・シェパードの友人) 

       ズーベイダ・ウラ(ワイオミング大学学生・イスラム教徒) 

       ティファニー・エドワーズ(記者) 

       シェリー・ジョンソン(ハイウェイ・パトロール職員の妻)


STAFF


美術島次郎
照明○竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
音響○島猛(ステージオフィス)
音響操作○岩野直人(ステージオフィス)
舞台監督○海老澤栄
演出助手○寺島友理子
文芸助手○久保志乃ぶ
衣裳○大野典子
衣裳助手○桐畑理佳
宣伝意匠○高崎勝也
写真○大原拓
宣伝協力○上田郁子
企画協力○ステージメディア(NY) 平井愛子
Company Staff○ぺ優宇 小室紀子 高野旺子 吉田智久
制作○古元道広 国光千世 大場さと子
協力○グロウブ 現代座会館
  森川万里 宮川博太郎 宮島久美 渡辺郁子 折田雅嗣 高木みちこ 櫻井千恵
  松本演劇フェスティバル実行委員会 松本アマチュア劇団連合会 諏訪劇祭実行委員会
共催○横浜公演・文化庁 神奈川県 横浜市
後援○松本公演・松本市教育委員会


平成14年度文化庁芸術団体重点支援事業




当日配布パンフレットより


ご来場ありがとうございます     坂手洋二


 「ララミー・プロジェクト」日本初演はちょうど二年前。
 そもそもオリジナルの発想じたいが前代未聞、既存の演劇観で上演するには面食らうテキストだったが、常田景子さんの翻訳には、その特性を活かすダイナミズムがあった。なるべく先入観なく皆で作品に向き合うようにした。
 今回、アメリカで出版された「オリジナル新版」を元に改訂した新訳によって、以前の疑問点の幾つかは解消したし、オリジナル版を創ったメンバーたちの居場所も見えやすくなってきた。だが、私たちは必ずしもアメリカ版に「近づく」姿勢を優先しているわけではない。稽古場では、私たちは私たち自身の課題を問いあわなければならない。そして、そうした手続きが、「劇団員たちが自分たち自身で考え集団創作する」という作品の方向性を吸収し、オリジナルメンバーたちと共鳴しあうことのできる方法なのだと思う。
 ある意味で、徹底して言葉によって成り立つテキストである。
 事件を取材した人間が、自分が体験した出来事を伝達しようとする、シンプルな機能を求められる作品でもある。
 興味深いが、そのぶん困難が伴う。
 だが、そもそも、そうした困難さに向き合うための装置として、演劇はあるのだろう。
 ここに描かれるのは「9.11」以前のアメリカである。
 だが、ある意味で、「9.11」は起きるべくして起こった出来事である。「戦争をしたがる国アメリカ」と「主体性なく尻馬に乗ろうとする日本」は、それ以前から批判されねばならなかった。
 ララミーに住む人たちにとって、この劇に描かれる「事件」は、「自分たちとアメリカ」について考える契機となったはずである。
 私たちも「自分たちとアメリカ」「自分たちと日本」という課題について、厳しく回答を迫られている。
 先日、私と劇団員たちは、渋谷の「反戦パレード」に参加した。「個人参加」「自主判断」と言ったが、作業のため来られなかった者たちを除いた多くが加わった。
 デモというにはのどかすぎる行進だったが、日本という国の中で私たちが「少数派」であるのか、じっさいには多くの友を持つのか、そうした想像力が、じつは私たち自身にかかっているということを、あらためて痛感した。
 「場」に対する想像力。「他者」に対する想像力。「自分たちは何者であるか」についての想像力。
 ある意味で、演劇に携わる者は、そうした想像力をこそ、専門分野としていなければならないのだろう。


*****************


 最初に「ララミー・プロジェクト」のことを知ったのは、ニューヨークの友人が書いた劇評でだった。読んでみたい面白そうな芝居だと思っていたら、そのスクリプトを坂手さんが入手していた。そんな偶然から、とんとん拍子に初演の運びとなった。それから2年経って改めて自分の翻訳を読んでみると、いろいろ粗も目についたので、少し手を入れさせていただいた。翻訳というものには、これでパーフェクトという完成形はないと思っている。結局は、近似値でしかあり得ない。だから、機会があるごとに、なんとか原作にできるだけ近づこうと手直しすることになる。自分自身の感覚も時とともに変わるので、「なんでここはこういう訳にしたんだろう?」と思うこともある。不注意で、詰めが甘くて、そのくせ、あきらめが悪いだけかもしれない。坂手さんは初演に際して、ララミーに取材にもいらっしゃったが、私はララミーどころかワイオミングのどこにも行ったことがない。再演に際して、映画版を見せてもらって明確になった部分もかなりあった。
 この芝居は、テクトニック・シアター・プロジェクトという劇団が、全米を騒がしたワイオミングの暴行殺人事件のあと、現地で行なったインタビューをまとめたものなので、台詞には、文法的には間違っていたり本来の意味とはちょっとずれた使い方をしていたりする言葉が、ところどころに入っている。そんなところも、アメリカ人が聞いたり見たりすれば、その人物の人となりとして生きてくるわけだが、しょせん別の国に生き、別の文化の中で別の言葉をしゃべっている日本人が上演するとなると、こういう社会性の強いものには、難しいところもいろいろ出てくる。そもそも、この事件にしてからが、アメリカでは全国津々浦々に報道された大事件だったようだが、日本で知っていた人は少ないだろう。その温度差のようなものも、上演の際には一つのハードルになる。そしてまた事件の性質上、宗教や人生哲学に触れた台詞も多い。そういうものに接する時、日本とアメリカの文化や歴史の違いをしみじみ感じる。だが、ワイオミングでインタビューに応じた実在の人々を演じているニューヨークの劇団の俳優を演じているのが、また、燐光群という劇団の俳優であるということによって、この作品が持っているドキュドラマとしての独自性がよく生きた舞台になったと思う。
 それにしても、ララミーの住民である自分たちが登場する芝居をニューヨークの劇団が上演するということに戸惑いを覚えた町の人々は、「ララミー・プロジェクト」が日本で上演され、日本の俳優が自分たちを演じていると知ったら、いったいどんな顔をするだろう。


常田景子